東京都、少ないPCR検査数のナゾについて
<東京都の衛生研と体制強化について>
東京都では、地方衛生研究所(東京都健康安全研究センター)のウイルス研究科でPCR検査を行っていて、ここで実施できるPCR検査は1日当たり120件です。都内の行政検査はここでしか実施できないため、東京都はこの体制を強化するとして、2月に補正予算を組みました。具体的には、ウイルス研究科の試薬や検査機器の購入などにより、来年度にはPCR検査を今の倍の240件にするというものでした。また、2月28日には、民間の検査会社1社と契約を結び、1日当たり100件の検査を依頼できる体制となりましたが、検体搬送の課題から、新型コロナ感染症で入院中の患者の「陰性確認のための検査(一人につき最低2回陰性反応が出ないと退院できない)」のみ、民間に依頼することになっていました。それを合わせても1日当たり340件、1400万人都民の検査体制としては少なすぎる体制です。
<民間の検査会社は国がおさえている>
3月2日、厚生委員会では中途議決(補正予算)のための質疑が行われました。質疑に当たり、都の課長から聞き取りを行った際、東京都が民間の検査会社と契約をしようとしたところ、大手3社(BML,SRL,LSI)は、国がおさえているため契約できず、手上げしたのは1日当たり100件のA社だけだった、と話していました。
確かに、BMLのホームページ(2月13日のIR情報)には、 「本検査は、厚生労働省からの指示にもとづき、指定された施設から検体を預かり、測定を行いま す。なお、現段階では一般の医療機関からの検査受託は対象にしておりません」と記載されていました。www.bml.co.jp/ir.html
しかし厚生労働省に確認すると「おさえてはいない」との回答。東京都は、検査会社に確認したのみで、「国」というところのどこの省庁がおさえているのかは、把握していませんでした。
<期待されたPCR検査の保険適用>
3月6日から、PCR検査の保健適用が開始され、検査数の増加が見込まれました。検査会社のBMLでは、当時「これまでの厚生労働省からの指示にもとづく行政検査のほか、厚生労働省が指定した帰国者・接 触者外来を設置している医療機関等からの受託を開始します。本検査は、リアルタイム RT-PCR 法 で実施いたします。なお、現段階においては厚生労働省の指定がない医療機関からの検査受託は対 象としておりません」との記載がホームページにもありましたが、都内では厚生労働省の指定を行けている医療機関=新型コロナ外来は、3月11日時点で34病院でした(都は約80病院としていましたが、実際は外来の整備ができたところから順次拡大していた。3月23日には都内77病院になった)。
しかし、12日に新型コロナ外来を行っている感染症協力医療機関に聞き取りに行くと「SLRにPCR検査を依頼しようとしたところ、10日ほどかかると言われた」と話していました。さらに東京都は、保険診療の自己負担分を公費負担とするための整備が追い付かず、民間検査会社で実施した件数について把握できていない(3月25日時点でも)ということで、どれだけ民間でのPCR検査が実施できたのかわからないまま、永寿総合病院での院内感染をはじめ、都内では多数の陽性患者が出る状況になってしまいました。
<東京都の努力が足りないのか?>
こうした事態を受け、厚生労働省ではどのような目的で民間の検査会社をおさえていたのか?また、現在で民間の検査数が伸びないのはどうした背景があるのかを確認するために、3月24日、厚生労働省への聞き取りを行いました。
当時厚労省から示された数は、全国の民間検査会社によるPCR検査数は1日120件程度になっていて、多くは地方衛生研での検査でした。民間の検査数については、報告があったら順次更新していくため、正確の情報にはなっていないといっていました。ttps://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000615055.pdf
また上記の表には、国立感染症研究所では、2月18日までは1日当たり400件を超えていましたが、その後2ケタ台におさまっていました(国立感染研の能力は1日当たり400件)。また、厚労省の職員は、東京都の地方衛生研だけで検査体制が不足するのであれば、隣接する自治体の衛生研や国立感染研へ検査の依頼を行うよう、厚労省としては提案していると話していました。
これらの話からすると、東京都がより積極的に民間検査会社へ依頼するか、近くの衛生研、感染研に依頼すれば、検査数は確保できるという内容だということでした。
<都が行うべきは、民間の検査数の把握と保健所への支援>
医療現場では、もし自分の病院から新型コロナに感染した患者が発生したとわかったら、その後の対応や風評被害というリスクがある、とか、民間の検査会社へは検体の搬送に手間がかかるといった課題から、検査に消極的になっているということも、医療機関と都の課長の両方から聞きました。さらに、これらの調整を行う保健所の体制が厳しいために、検体の搬送や陽性者の連絡があった後の積極的疫学調査の実施など、対応することが多岐にわたっていて対応しきれないということも課題となっています。
診察した医師がPCR検査を必要と判断した場合には、検査の依頼をしやすくすることが必要です。そのためにも、検体搬送を東京都から支援して民間の検査会社の活用がしやすくなること、保健所体制への支援を行い、検査をスムースに行えるようにすることが必要です。